記事更新日:
プロのテーラーが教える『英国スーツ生地』完全ガイド|選び方・特徴・人気7大ブランドの魅力を徹底解説!
オーダースーツを初チャレンジする人にとっては、すべてが未知のことです。生地の選び方もスタイルの選びからもよくわからないまま作りに行った人も過去にはたくさんいます。でもそういう状態での初オーダースーツはほとんど失敗・・・が大げさであれば、不満足に終わると考えてよいでしょう。
すべてを知ってから始めることなど不可能ですが、最低限知っておいた方がよい生地の選び方の基本や、英国生地とイタリア生地の違いなどがあります。
この記事では、オーダー生地として英国生地とイタリア生地ばかりが使われるという不思議な現象の理由を、白日のもとに晒します。さらにこの二つの生地の違いを、できるかぎりわかりやすく解説します。あまり知られていない情報も含まれるので、オーダー初心者だけでなくリピーターの人にも参考になると思いますよ!
目次
基本中の基本、オーダースーツの生地の選び方とは?
オーダースーツを初めて作ろうという場合、未経験ゆえに生地をどうやって選べばよいのか迷ってしまうものです。そんな人のために、スーツ生地の選び方の参考になる項目を3つほど紹介させて頂きます。
Point1 生地のファッションテイストで選ぶ
生地の持つ雰囲気は色々とあります。クラシックなものから現代的なもの、保守的なものやアート的なものなど、好みが分かれるところです。自分が着てみたい雰囲気や仕立てたいスタイルに似合う素材感というものもあるので、ショップスタッフに相談して、意見をもらいながら選びましょう。
Point2 生地の機能性から選ぶ
生地の機能性とは、ストレッチ性に優れているとか、紫外線を跳ね返すとか、シワに強いもや通気性が高いもの、あるいは保温力が高いものなどの、生地が持つ物理的な機能に応じて選ぶことです。
仕立てたスーツを実際に着用するシーンを想定してみましょう。例えば出張に着て行くのであれば、連日着用してもシワがつきにくくパリッとしているもの、撥水加工がなされていて突然の雨にも慌てなくよいものなどが向いています。
Point3 生地の価格帯で選ぶ
買い物には予算はつきものです。誰もが限られた予算の範囲内で、最大限の満足を得たいのは同じです。同じような価格であっても、より目的に相応しく、より品質が良いものを選びたいですよね。見較べるだけではなく実際に手で触って比較することも大切です。わからなくとも、手触りが何かを感じることがあります。
英国ものとイタリアもの・・・生地の違いはどういうところ?
■英国生地・イタリア生地の違い早見表
英国生地とイタリア生地のわかりやすい違いを表にしました。(※典型的なものの比較であり、実際はニュートラルなものもたくさんあるので、あくまでも参考として)
生地 | イタリア生地 | 英国生地 |
---|---|---|
イメージ | ||
概要 | 絹のような光沢を持ち柔らかな生地 | 重厚で堅牢なハリとコシのある生地 |
触り心地 | 軽く柔らかく滑らか | 重くてがっしり |
表面感 | 光沢が美しくドレープ感がある | マット(艶消し)感がある |
こんな人に おすすめ! | 今っぽくて粋な印象を作りたい男性 | 紳士な印象を作りたい大人の男性 |
あたりまえのことですが、毛織物は世界中の多くの国で生産されますし、日本でももちろん作られます。それなのに、日本のオーダーショップだけでなく、世界中のオーダーショップにおいて、メインは英国生地とイタリア生地であることは揺るぎない事実です。
日本の国産品や、スペイン製、ポルトガル製、中国製なども選べたりはしますが、メインではありません。
英国とイタリア・・・どちらも洋服文化、特に紳士服については本場と呼ばれています。世界に多くの国があり、多くの生地が作られていますが、紳士服地についてはなぜか英国とイタリアの生地に集約されてしまうのです。その興味深い事実の裏にある理由を解明つつ、英国生地とイタリア生地の違いを紐解いてみましょう。
英国生地・イタリア生地ばかりがなぜそこまで好まれるのか?本当の理由とは
このことはあまり知られていないのですが、良質な服地を生産するために、特に大切なものは「水の質」なのです。言うまでもなく原料である羊毛の質や紡績機、織機も大切です。つまり、それらの要素を最大限に活かすのが「水の質」なのです。
織物生産プロセスの中で、原毛の洗浄・染色や織られた生地の仕上げ作業など、多くの工程で水を大量に使います。この水に関しては「軟水」が必要とされます。水分中に「ミネラル成分」、つまりカルシウムやマグネシウムなどの成分が少ない水が軟水であり、それらが多いと「硬水」と呼ばれます。
ミネラル成分は繊維の中の「色素」と結合する性質があります。硬水を使用して生地を作ろうとすると、繊維と色素の結合が邪魔されます。よって色目の冴えなど望めなくなります。また、洗浄作業での洗剤や石鹸の泡立ちも悪く、洗浄効果が低い上に沈殿物、カスが大量発生するのです。河川の汚染にもつながります。
良質の軟水で洗浄すると、泡立ちが良いので洗浄効果は高くてカスも発生せず、河川の汚染の心配もありません。色の染まり具合も良くて鮮やかに冴え、不純物も混じらない高品質の生地となります。
しかしながら、良質の軟水に恵まれている地域は世界でも限られています。そして水以外の自然環境、交通インフラや関連業者等々の地域性、そこに生きる人たちの洋服に関する伝統やファッションに対する感性も、良い生地を生み出す大きい要因でしょう。
それらの要素をすべて包含して、生地の生産に最も適しているのが英国、ウェスト・ヨークシャー州のハダーズフィールドとイタリア、ピエモンテ州のビエラなのです。このふたつが毛織物の聖地(メッカ)などと表現される所以でもあります。
英国生地・イタリア生地の違いは何だろう?
英国のハダーズフィールドはヨークシャーの恵みを享受して良い生地を作ります。イタリアのビエラはアルプスの恵みを享受して、同じく良質の生地を生み出します。ただし、それぞれの生産物たる服地には色々と違いがあります。もう少し掘り下げてみましょう。
堅牢&重厚な英国生地vs柔らかくて艶があるイタリア生地
現代は生地や繊維製品のマーケットがグローバルになっているので、ひと昔前ほどの生産国による生地の特性の違いは影を潜めつつあります。とは言え、まだだまだ英国調というイメージで代表される生地の方向性が存在します。
「重厚で堅牢」からくる「ハリとコシ」があるのが英国生地の代表的なイメージです。昨今はイタリア生地っぽいものも発信されますが、やはり基本路線は重厚&堅牢ですね。そして柄においては歴史と伝統のある英国クラシックの柄はもはや普遍的なものになっています。イタリアの生地でも英国調の柄は普通にありますが、質感が違います。
がっしりした、ゴワっとした、シャキッとした、しゃりっとしたなどの表現で描写される英国生地の「ハリとコシ」があります。その秘密は経糸(たて糸)と緯糸(よこ糸)のどちらにも双糸(複数の糸をより合わせた糸)を使用することにあります。
一般的な毛織物は経糸はしっかりした双糸を使い、緯糸には単子を使うことが多いので、それらと比較すると重厚感に大きい違いが生まれ、風合いだけではなくシワにも強く丈夫な生地となります。
英国発の生地・スタイルの特徴・どんな人におすすめ?
英国から発信される生地の特徴やスーツスタイルについて解説し、そのうえでどんな人におすすめかにも触れてたいと思います。
英国生地の特徴とは?
英国生地のイメージは前述の通り、重厚で堅牢でマット感のあるものが多いです。打ち込みが良い、つまり高密度で織り上げられているからこそのハリとコシがあり、仕立て上がりとしてはカチっとした感じの、正統派の紳士服のイメージになります。
英国のスーツスタイルの特徴とは?
英国スーツはビスポークタイプの構築的な服が主流です。肩パッドもしっかり入り、肩や胸、そしてヒップ周りにゆとりをもたせ、ウエスト部分を砂時計状に綺麗にくびれさせるイングリッシュドレープが英国スーツのアイデンティティマスクと言える仕立て方です。
英国生地はこんな人におすすめ
英国生地には、服飾文化を担ってきた伝統と文化的背景が織込められているようなものです。スーツを社会と個人の接点と考える文化で、紳士の装いとして誠実で清潔で洗練されたものが理想とされます。そういう生地なので、社会において紳士たらんとする、大人の男を目指す人におすすめできます。
英国生地ブランドを徹底紹介!
それでは英国生地の多くのブランドの中から、代表的ブランドを7つ挙げて、特徴や魅力、価格帯やおすすめ生地などを紹介します。スーツ購入時の参考にしてください。
手紡ぎの精神を失わずに一貫生産・・・ムーン-MOON
MOON-ムーンの毛織物は19世紀に欧州から世界に広まりました。MOON-ムーンみたいに原料の加工から仕上げまでを一貫しておこなう製造業者は、現在では数が少なくなりました。
MOON-ムーンの特徴・魅力
MOON-ムーンの製品は打ち込みが良いのにふっくらして、暖かみがある生地です。スーツ以外もジャケットやコート地としてよく使われます。冬生地のイメージが強いのですが、通年物や春夏物もあります。MOON-ムーンらしく太番手の糸でふわっと柔らかい、快適な風合いを兼ね備えています。
MOON-ムーン生地使用オーダースーツの価格帯
MOON-ムーンの生地を使ったオーダースーツの価格帯は税別59,000~69,000円程度が相場です。人気があるアイテムのツイードジャケットで税別39,000円程度から。ツイードコートで税別69,000円程度からです。春夏物はMOON-ムーンらしく太番手の糸でふわっと柔らかい、快適な風合いを兼ね備えています。
ジョン・フォスターの2世紀に亘る伝統と普遍が輝く
「ジョン・フォスター」は200年に亘り、英国を中心とする欧州の服飾の歴史の中で、服地を世に送り出してきた老舗です。英国服地を代表する服地ブランドであり、オーセンティックな英国クラシックを現代に展開する本格派だと言っても過言ではありません。
https://www.pepperlee.co.uk/brands/john-foster.html
ジョン・フォスターの特徴・魅力
イタリア製の服地よりも、はるかにハリやコシがある優れた素材感を有する服地です。とはいえ昔の英国服地のような固さはなく、時代の流れの中で固過ぎない、そして柔らかい訳ではない、ちょうどよい生地の仕上がりです。
ジョン・フォスター生地使用オーダースーツの価格帯
平均的にはエントリー価格が税別で59,000円程度のショップが多いようです。ジョン・フォスターの中の銘柄によってもグレードの差があるので、その裾値プラス1~3万円ぐらいの幅と考えましょう。
バウアー・ローバックの最新技術と職人技が生む「本質」を纏うべし
バウアーローバックは、「ハダーズフィールド」を拠点とする織元(おりもと=毛織物製造業)です。羊毛生地や最高水準の梳毛カシミアの生産者としても有名です。1973年には前述の世界的マーチャント「スキャバル」が資本参加し、2005年に姉妹会社「サヴィル・クリフォード」を設立したのがバウアーローバックです。
バウアー・ローバックの特徴・魅力
バウアー・ローバックは、現代感覚と伝統をどちらも重視します。優秀なバーロックのデザイナーたちは世界中の関係業者を訪れ、トレンドや今後の技術革新について語り合うのが常です。そういったテキスタイルデザイナーの努力、研究、常に上書きされる設備のレベルとともに、誇りを持っているのは「職人技」なのです。
バウアー・ローバック生地使用オーダースーツの価格帯
バウアー・ローバック服地のオーダースーツは、だいたい税別59,000〜78,000円の範囲で仕立てることができるようです。実質的には世界最高水準のクオリティなので、8万円台を超えたとしても充分に価値があると言えるでしょう。
サヴィル・クリフォードで自分を「格」上げしよう!
サヴィル・クリフォードのオーダースーツはそれなりの価格になります。ただし、世紀を超える歴史が生み出す上質な服地で仕立てられたスーツには、それだけの付加価値があるのです。サヴィル・クリフォードは着る人を「格」上げして、思わず一目を置かせてしまう、深い印象を生み出す服になるのです。
http://www.savileclifford.com/index.html
サヴィル・クリフォードの特徴・魅力
サヴィル・クリフォードは生産設備がとても小規模であり、小回りのきく柔軟さや、高度な仕事に対応できる技術を持っているのです。技術革新によって、見た目は重厚な英国生地そのものでも意外と軽やかで日本の気候との相性は抜群です。テクノロジーを駆使しつつ、伝統ある英国テイストを見事に表現します。
サヴィル・クリフォード生地使用オーダースーツの価格帯
サヴィル・クリフォードの服地でオーダースーツを作る場合の予算は、ショップによって開きはありますが、エントリー価格は税別73,000円~98,000円ぐらいが相場で、10万円を超えるショップもあります。
「優雅」を体現!ハリソンズ・オブ・エジンバラ
「ハリソンズ・オブ・エジンバラ」は1863年に、後のエジンバラ市長サー・ジョージ・ハリソンによって創業され、近現代の英国を代表する名門服地マーチャント(毛織物商社)として成長しました。最高水準の服地を世界中に届けています。
https://www.harrisonsofedinburgh.com/
ハリソンズ・オブ・エジンバラの特徴・魅力
ハリソンズ・オブ・エジンバラはある哲学を通して生地をプロデュースします。「最も優れた羊毛原料だけが、唯一真の最高級と呼べる服地を生み出す」がそれです。原料の採取から染色、紡績、織り上げてから仕上げに至るまで、全工程に妥協を排除しるからこそ、一流の仕立て職人からの絶対の信頼を得るのです。
ハリソンズ・オブ・エジンバラ生地使用オーダースーツの価格帯
ハリソンズ・オブ・エジンバラの生地使用のオーダースーツの価格帯は、非常にバラつきがあります。格安と言える税別55,000円もありますが、一般的には税別88,000~118,000円ぐらいが相場で、上は税別13万円を超えるものもあります。
フォックスブラザーズで自分の「流儀」を確立しよう
「フォックスブラザーズ」は1772年、トーマス・ファックスによって英国南西部サマセット州のウェリントンで創業されました。第一次世界大戦中は重厚堅牢な「サージ」を英国王立陸軍に大量に納め、後にフランネルの創設者として公認され、極めて高い評価を受けることになります。
フォックスブラザーズの特徴・魅力
フォックスブラザーズの工場は織機が11台。新しい織機は2台だけで9台は旧式の織機なのです。新しい織機は高速で織ることができますが、紳士服地はあえて旧式織機で通常の2~3倍もの時間をかけて織り上げます。そうやって極細繊維の良質素材を傷つけずに織り上がったクオリティは圧倒的な違いが出るのです。
フォックスブラザーズ生地使用オーダースーツの価格帯
フォックスの服地のバリエーションもあり、またショップによってバラつきはありますが、エントリー価格が税別98,000円~108,000円ぐらいが相場です。高いグレードの服地を選べば、12万円を超える場合もあります。
紳士を真摯に目指すなら、テーラー&ロッジ
「テーラーロッジ」は1883年に創業されて以来、最高級英国服地を世界中に発信し続けています。英国のビスポークテーラーからだけでなく、イタリアのトップブランドからも熱いオファーがくるほど素晴らしい服地を生み出す老舗であり、名門の織元であり服地ブランドなのです。
https://www.taylorandlodge.com
テーラー&ロッジの特徴・魅力
世界中から認められるテーラー&ロッジの品質は、原料の質や仕上げ技術の高さによって裏打ちされています。以前はドブクロスと呼ばれる旧式の超低速織機にこだわっていましたが、高速織機でも速度を落とせば低速織機同様の効果があることが分かり、現在は高速織機でスピードを70%まで抑制して織るこだわりようです。
テーラー&ロッジ生地使用オーダースーツの価格帯
テーラー&ロッジのオーダースーツの価格帯は、ショップによって多少の違いはありますが、エントリー価格が税別98,000~110,000円ぐらいが相場です。もちろん中には12万円を超える服地もたくさんあります。
まとめ
英国生地の魅力を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?英国生地とイタリア生地がとりわけ人気が高い理由は水と環境だったのですね。そのうえで英国生地の持ち味である重厚&堅牢が好みか、イタリア生地の柔らかくて艶があるのが好みかで検討してください。
このメディア、メンズファッション研究所の中にも、個々の英国生地ブランドの記事もあります。オーダースーツについてもさまざまに掘り下げた生地もありますので、ぜひ参考にしてください!
[simple-author-box]