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靴ではなく、「ステファノ・ベーメル」という価値を手に入れる。大切にしたい1足が必ず見つかる。

名品にまつわる物語 ステファノのある風景

艶めいたストレートチップには、ロングホーズで立ち向かう。

祖父の誂え靴

https://therake.com/stories/style/stefano-bemer-for-the-rake-the-ready-to-wear-collection/

これを見た時、祖父が町の靴屋で誂えたストレートチップを思い出した。もちろんデザインも革質も違うものだが、祖父が愛用し信頼していた靴のような深い度量を感じたのかもしれない。夏は麻のスーツに合わせ、秋冬は深いネイビーのスーツに合わせていたように記憶している。よく使い、マメに手入れをしていた姿を覚えている。彼によく馴染んでいた。

この靴は、現在の私にはまだ相応しくないかも知れない。憧れが勝っている、距離があるのだ。しかし今手に入れなければ、再び交わることもなく距離を詰めることもできない。祖父にとっての誂え靴が、自分にないままでは悔しいではないか。

いっしょに年を重ねる覚悟

http://thecloakroom.com.au/stefano-bemer/

言い訳に聞こえてもいいが、今は使わないものでも、今手に入れておいたほうがいい場合もある。じっくりと距離を詰めていくことにしようと決めた。履き下ろすまでも手入れを怠ってはいけない。初めて履く日を思うと、少々照れくさいが、祖父のように年齢に相応しい服装でさっそうとありたいものだ。

ひとつだけ決めごとをしている。この靴を履く時は、ソックスに気を遣おうと思う。普通の長さではダメだ。ロングホーズでなければ立ち向かえない。上質なスイスコットンで、色はネイビーを選ぶ。足を組み替えたときに、この靴との一体感が強まるはずだ。

プロポーションの良さ、グラマラスなダブルモンク

ロングノーズに隠された巧妙な罠

https://riddlemagazine.com/stefano-bemer/

モンクストラップは、その堅牢さと扱いやすさが気に入ってでシングル、ダブルとも素材違いで何足か持っている。この手の靴はもう充分だと思っていた。しかし、このダブルモンクを見かけた時の違和感、足元をすくわれたような感覚を覚えている。

イタリア靴らしいロングノーズだが、ストラップのレイアウトもノーマルで、ストレートチップ仕様になっている。色は鈍い光を湛えた、見事な黒だ。どこに違和感を覚えるというのだろうか。それにしてもプロポーションの良さが際立っている。

実はロングノーズではないのだ。長く見せていることに気付いた。ストレートチップの入れ方を通常よりも深い位置に持ってくることで、トゥ部分をスッキリと見せているのだ。つまり足長効果が隠されている、それが違和感の原因だったのだ。

ステッチの位置で、着こなしの土壌が広がる。

http://thecloakroom.com.au/stefano-bemer/

不思議なもので原因が判明すると急に親近感が増してくる。誰かに教えたいようで、教えてはいけない秘密を共有している心境になっている。この仕掛けを生かすには、どうした服装が望ましいのだろうと想像してみた。シャープな印象を際立たせるブラックスーツ。トムフォードの端正なスーツが見合いそうだ。またはデニムという選択肢もあるだろう。日本ブランド、例えば生地から作りこむカンタータのデニムを合わせトレンチコートのベルトをギュッと絞る。隙のない着こなしも、間を大切にした組み合わせにもイケそうだ。

守備範囲が広いという事ではない。豊かな土壌の上では、いかなる植物も豊かに芽吹き花を咲かせるという事に近い。太陽を向け、水を与えれば新しい芽生えも期待できる。これまでとは違う着こなしがいいのか、これまでを重んじた着こなしが似合うのか、楽しみが増えるに違いない。