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靴ではなく、「ステファノ・ベーメル」という価値を手に入れる。大切にしたい1足が必ず見つかる。
ステファノ・ベーメルが作り出す世界をひとことで表すとすれば、『やすらぎ』という言葉が相応しいように感じます。それぞれが自然にたどり着き、腰を下ろす場所。何かと比較するものではなく、誰かが評価を下すものでもありません。求めるだけでは手に入らない、しかし求めないと届かない境地を感じます。
http://greatjob0753.com/brandkawagutudatebase/339.html
ですから素材選びだとか、デザインの特徴だとか、工程が何層にも繰り返されるとか説明を書き連ねたとしても決して足りることはないでしょう。どのような紹介の方法が望ましいのか思案するところです。しかしブランドの歴史を知ることが、第一歩かも知れません。
https://www.imn.jp/post/108057194595
夭逝の天才 短すぎるステファノ・ベーメルの生涯
順調に、着実に実績を重ねることで与えられた称号
https://www.forbes.com/forbes-life-magazine/2008/1027/056.html
1988年、靴の修理工であったステファノ・ベーメル氏がフィレンツェで立ち上げたました。修理することで古い靴の構造を理解し、靴作りの研鑽を重ね独自の解釈を加えていきます、彼は 『天才アルティジャーノ(職人、工芸家)』、『革の魔術師』とも呼ばれていました。
素材使いが独特で、象やカバ、シャークスキンなど、それまではあまり用いることのない革を使い、それに見合った構造と縫製を施して注目されるようになりました。クセのある素材を使いこなすには高い技術と柔軟な対応が必要です。木型を削り、革をかぶせ、手縫いで仕上げるという手間のかかる方法を極めることがステファノ・ベーメルを高い評価に導いてくれました。
http://www.claymoorslist.com/2013/10/portrait-of-a-shoemaker-stefano-bemer.html
創業から僅か10年でフィレンツェの名店『タイユアタイ』のディスプレイを飾る事になります。この店はダンディズムの象徴、現世のボー・ブランメルとの称されるフランコ・ミヌッチ氏が立ち上げた服飾店で、ネクタイを結ぶことから得られるライフスタイルを全世界に発信するメンズファッションの聖地として常に注目されています。
急死により状況が一転、しかし支えたのは日本人職人でした。
https://riddlemagazine.com/stefano-bemer/
ステファノ・ベーメル氏は親日家としても知られていて、2002年には既成靴(プレタポルテ)を日本でデビューさせています。この成功がアメリカ進出のきっかけとなったと言われています。しかし2012年、仕事中に倒れ、48歳の若さでこの世を去る事になりました。
その後のブランドを支えたのは、彼の妻と、クオーラ・デル・クオイオという皮革学校の子息トム・マーゾ、そしてふたりの日本人の女性職人でした。経営とマネージメントはトム・マーゾがコントロールし、現場の士気はふたりの日本人が担うという現在のコンビネーションが確立していきます。
http://brift-h.com/stefano-bemer-x-brift-h-%EF%BD%9Epatine-accessories-trunk-show%EF%BD%9E-2/
日本でのオーダー会などを定期的に実施しているのは、ステファノが親日家であっただけでなく日本人職人の存在が欠かせません。ふたりが中心となり、その他にも毎年数名の日本人職人が修行しながらブランドの基盤を支え、進化の道を模索しています。
http://stefanobemer.com/training/
伊勢丹のサイトでも購入することは可能ですが、一度はオーダー会などに出かけて実物に触れることから始めて欲しいいと思います。そこでは素材がどうの、縫製が優れているなどではなく、ステファノという価値に触れて欲しいのです。商品説明の代わりに、ステファノのある風景をショートストーリーにしてみました。
名品にまつわる物語 ステファノのある風景
艶めいたストレートチップには、ロングホーズで立ち向かう。
祖父の誂え靴
https://therake.com/stories/style/stefano-bemer-for-the-rake-the-ready-to-wear-collection/
これを見た時、祖父が町の靴屋で誂えたストレートチップを思い出した。もちろんデザインも革質も違うものだが、祖父が愛用し信頼していた靴のような深い度量を感じたのかもしれない。夏は麻のスーツに合わせ、秋冬は深いネイビーのスーツに合わせていたように記憶している。よく使い、マメに手入れをしていた姿を覚えている。彼によく馴染んでいた。
この靴は、現在の私にはまだ相応しくないかも知れない。憧れが勝っている、距離があるのだ。しかし今手に入れなければ、再び交わることもなく距離を詰めることもできない。祖父にとっての誂え靴が、自分にないままでは悔しいではないか。
いっしょに年を重ねる覚悟
http://thecloakroom.com.au/stefano-bemer/
言い訳に聞こえてもいいが、今は使わないものでも、今手に入れておいたほうがいい場合もある。じっくりと距離を詰めていくことにしようと決めた。履き下ろすまでも手入れを怠ってはいけない。初めて履く日を思うと、少々照れくさいが、祖父のように年齢に相応しい服装でさっそうとありたいものだ。
ひとつだけ決めごとをしている。この靴を履く時は、ソックスに気を遣おうと思う。普通の長さではダメだ。ロングホーズでなければ立ち向かえない。上質なスイスコットンで、色はネイビーを選ぶ。足を組み替えたときに、この靴との一体感が強まるはずだ。
プロポーションの良さ、グラマラスなダブルモンク
ロングノーズに隠された巧妙な罠
https://riddlemagazine.com/stefano-bemer/
モンクストラップは、その堅牢さと扱いやすさが気に入ってでシングル、ダブルとも素材違いで何足か持っている。この手の靴はもう充分だと思っていた。しかし、このダブルモンクを見かけた時の違和感、足元をすくわれたような感覚を覚えている。
イタリア靴らしいロングノーズだが、ストラップのレイアウトもノーマルで、ストレートチップ仕様になっている。色は鈍い光を湛えた、見事な黒だ。どこに違和感を覚えるというのだろうか。それにしてもプロポーションの良さが際立っている。
実はロングノーズではないのだ。長く見せていることに気付いた。ストレートチップの入れ方を通常よりも深い位置に持ってくることで、トゥ部分をスッキリと見せているのだ。つまり足長効果が隠されている、それが違和感の原因だったのだ。
ステッチの位置で、着こなしの土壌が広がる。
http://thecloakroom.com.au/stefano-bemer/
不思議なもので原因が判明すると急に親近感が増してくる。誰かに教えたいようで、教えてはいけない秘密を共有している心境になっている。この仕掛けを生かすには、どうした服装が望ましいのだろうと想像してみた。シャープな印象を際立たせるブラックスーツ。トムフォードの端正なスーツが見合いそうだ。またはデニムという選択肢もあるだろう。日本ブランド、例えば生地から作りこむカンタータのデニムを合わせトレンチコートのベルトをギュッと絞る。隙のない着こなしも、間を大切にした組み合わせにもイケそうだ。
守備範囲が広いという事ではない。豊かな土壌の上では、いかなる植物も豊かに芽吹き花を咲かせるという事に近い。太陽を向け、水を与えれば新しい芽生えも期待できる。これまでとは違う着こなしがいいのか、これまでを重んじた着こなしが似合うのか、楽しみが増えるに違いない。
先入観は捨てることだ。イタリア顔のローファーでしか味わえない時間がある。
引きの強いローファーに出会ってしまった。
http://unionworks.blog118.fc2.com/blog-entry-1826.html
妻の買い物に付き合わされて出かけた時に、このローファーと出会ってしまった。彼女は友人へのプレゼントを選びたいというので、時間を持て余した私は紳士フロアで待っていると告げて馴染みのスタッフがいる靴売り場に吸い込まれたという訳だ。
既にアメリカ、フランスの名品と言われるローファーは持っている。さて、どうしたものだろうか。これまではイタリア靴は押しの強さに腰が引けて、自分には似合わないという先入観が勝っていた。それにしても、この靴がもつ引力には抗えない。
長く見惚れていたのだろう、女性スタッフが声をかけてきた。しかし、試着すれば気持ちが揺らぐことは自分が良く知っている。彼女の説明は的を得ていて、余計なうんちくは無いので気持ちがいい。印象に残ったのは創業当主が若くして他界したこと、その遺志を継いだ職人が2名の日本人女性ということ。やるじゃないか日本人。
ためらわず、日本人としての矜持を共有する。
https://riddlemagazine.com/stefano-bemer/
『素敵ね。』折よく?妻がフロアに降りてきていた。『これで奥さまとドライブなんか羨ましいですねぇ。』女性スタッフは妙に妻と仲がいい。しかし頭の中では地方都市の大学院へ進んだ娘のところへ行く、秋の予定とシンクロし始めていた。紅葉を楽しみながら、車で向かうつもりだ。
柿色のコーデュロイパンツがいい。気慣れたデニムジャケット、寒ければ大判のカシミアで肩を包むようにすれば問題ない。娘が暮らす北の街は、妻のふるさとにも近い。寒くなるにつれて、魚がおいしくいなるという。三人で食事をするのは久しぶりだから、この靴を連れ出せばいっそう思い出が深くなるに違いない。ゆっくりとした時間を楽しめそうじゃないか。
ニッポンの美意識が、イタリアとの国境を低くしている。
http://stefanobemer.com/about/
実は海外の靴工房で修行する日本人は意外に多く、特にイタリアには多くいるのだと聞いたことがあります。その先駆けがステファノで働くふたりであったかは確認できませんが、彼女たちの頑張りが後進の背中を押したことは間違いなさそうです。
日本人のマジメさ、実直さは海外では良く耳にする言葉ですが、それだけでは超えられない意識の違いを私たち日本人は持っているだと思っています。他と比べるのはなく、独立した価値を重んじる気質が備わっているのだと思います。
https://www.imn.jp/post/108057194918
そうした日本人ならではのアイデンティティがステファノ・ベーメルという形を成したとき、それまでとは違うブランド力を発散し始めたのだと、今のステファノの作品を見て感じることが出来ます。国や人種、宗教などとは違う次元に、ステファノという価値が息を潜めているのです。
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