2018/07/24

「三陽山長」の紳士靴。神々しささえ覚える奥深い魅力は、どこから来るのか。

三陽山長の専門店、または多くのコレクションを揃えた売り場に行ったことがあるでしょうか。緊張と興奮が交錯し軽いトランス状態に陥った気分でした。しかし少しするとコレクションが放つ湿度を感じ、神々しさと言えばいいのかとても静かな境地に誘われます。三陽山長は、日本の既成靴では高価な商品です。製法や素材にぬかりはありません。しかし、それだけでは伝えきれない、魅力というより魅惑について探ってみます。

日本画のような美しさ 精緻な表現と大胆な解釈が時代を超えて愛される

https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/jp/shops/22300/

あのSANYOから新しい靴ブランドが出るらしいというニュースは靴マニアのあいだであっと言う間に広がりました。SANYOはバーバリー社とのライセンス契約や、提携するヨーロッパブランドの商品開発などのほか、それらを通じて培った技術と感性を生かし、オリジナルブランドを展開して日本のファッション界を牽引してきました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000009154.html

その地位と影響力は今も変わってはいません。ですから新ブランドへの期待は高まります。海外ブランドとの提携なのか、それともまったくのオリジナルブランドなのか。

いい意味で、その期待は裏切られたのではないでしょうか。商品のクオリティを認識する前に、『三陽山長』というブランド名、そしてどのように読むのか、およそファッションメーカーらしからぬ漢字表記に戸惑いました。

http://www.sanyoyamacho.com/news/2016/11/post-164.html

しかし優美とも思える曲線、画像からでも伝わってくる素材の豊かさ、主張する細部への気遣い。いずれもSANYOが生み出した一級品に異論を唱える余地はありません。深く頷くのみだったと思います。

イギリス靴の実直さもあり、イタリアやフランス靴のような雄弁な一面もありますが、そこにあるのはまさしく日本靴としか例えようがありません。

琳派とシンクロする世界観 ゆるぎない表現力に感服する

http://shortshorts.org/2017/prg/ja/1307

携わった職人たちは名工とも言うべきキャリアの持ち主なのだと聞けば、SANYOの本気度がうかがえます。プロジェクトの始動を喜ぶばかりです。刻印だけでなく、どこを切り取っても日本という美しさが染み出してきます。信じるものを探求してきた潔さや微笑ましさがあります。

http://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item10.html

そのアプローチは時代を超え、写実に捉われず、しかし先達をリスペクトして道を切り開いてきた『琳派』を思わせます。尾形光琳、俵屋宗達など存在感のある画風は、現代にあってもまた人種を超えて評価されています。

https://www.imn.jp/post/60824349632

『三陽山長』という主張ではなく、迎合しない強い意思はコンテンポラリーな商品として輝きを増しています。至るまでの経緯を知り、商品ラインアップを堪能ください。

 

三陽山長の歴史 小さなプロジェクトから始まり、その思いはますます強く、深く

http://www.boq.jp/special/2006/sp_shoenintoiro/vol007/index.html

三陽山長はSANYO(三陽商会)の靴部門として2001年に誕生するのですが、それ以前の物語があります。その1年前、つまり2000年に10月に業界では有名な長島正樹氏が中心となって興したプロジェクト『山長印靴本舗』の功績があります。

氏は某有名靴メーカーで販売から商品企画まで広く携わり注目され、その後アメリカやイギリス靴のインポーターとして実績を積み重ねます。ドレス靴だけでなくワークブーツのチペワを普及させ、デッキシューズの先駆けであるトップサイダーのディレクションにも関わります。彼はアメリカ靴が大量生産によってクオリティが減退する現状を憂いていました。

幼少の頃から憧れていたアメリカが、どんどん『らしさ』を失っていく。日本のもの作りは、その追随であってはいけない。その思いを詰め込んだのが『山長印靴本舗』という形に行き着いたのです。

http://roomservice-japan.org/news/detail.php?p=001494&cate=column

そのプロジェクトには浅草の靴職人が参加するほか、高円寺や都内各所から長島氏の思いを共有するため協力を惜しまなかったと言われています。彼らの多くは手縫いの技術に長けていましたから、機械で出来ない細部の仕上げも柔軟に対応してくれたそうです。

https://eastside-goodside.tokyo/cat-event/13603

現在三陽山長で展開する基本形はこの段階で出来上がります。そしてその1年後、SANYOというバックボーンを得て『三陽山長』というブランド名を冠した純日本靴がリスタートを切ることなるのです。長島氏が目指した高みは忘れることなく、さらに多くのお客様にお届けすることが出来るようになりました。

https://www.brand-reserve.com/column-220

様々な意見や要望が集まり、いっそうの高みを知ることにもなりました。直営店も首都圏を中心に展開し、顧客作りに貢献しています。伊勢丹をはじめ。老舗百貨店での売り場も確保してきました。18年を経過して、ベテラン職人に支えながら進化を続けているのです。

三陽山長の特徴 基本 製法 アイデンティティ という3本柱

基本を尊ぶ 日本人に最適な木型 日本の風土に最適な木型

創業当時から細部まで削り込んだ木型はブランドの宝として大切にされてきました。ベテランの職人が作り出すフォルムは手仕事を主体としてきた証として自然な丸みを帯びています。それだけで十分に成立する美しさを醸しているようです。

とは言え靴は履いてみなければ、足入れしてみなければフィット感を得ることは出来ません。詳しい種類~系列などはオフィシャルサイトなどを参照してください。

ここで伝えたいのは、その木型も年々変化しているという事、時流も踏まえ18年前の木型だけでは満足するフィット感を提供できないためです。高温多湿の日本でも快適に過ごせるには、素材選びだけでなく構造から積み上げるジャッジが必要になるのです。

製法は柔軟に 機械縫いは否定しない 手縫いに固執しない

既成靴を提供する上で、クオリティの維持と価格のバランスは必要です。また量も大切な要素になってきます。効率よく市場に送りだせなければニーズが落ち込む懸念もあります。機械縫いを用いることで耐久性が生まれます、グッドイヤーウェルトは好例でしょう。

しかしモデルによってはブランドの個性を残すため手縫いで仕上げています。またイタリア靴に見られるボロネーゼ製法を採用することで、イギリス風の面立ちでありながら薄いコバが色香を残すシリーズもあります。純日本靴は自由な風をはらみ進化するのです。

愉快な個性 日本名に込めたアイデンティティ

ブランド名も日本名ですが、モデルの区別も和風というアプローチはとても面白く受け入れられたようです。なにより印象に残りました。縦書き、漢字表記が誇らしく、ブランドのアイデンティティを表現しています。実はモデル名には法則があるのだそうで、物知り顔のネタに使ってみては。

モデル名の頭文字を並べると【友】- ストレートチップ【源】- ダブルモンクストラップ【勘】- Uチップ【長】- ブーツ【弥】- ローファーという具合に大別できます。ですから『友二郎』と表記されていれば、ストレートチップという訳です。

三陽山長の定番アイテム紹介

友二郎 ストレートチップ

三陽山長の代表格、長兄といった立ち位置でしょう。ごくスタンダードなデザインですから履きこむことでオーナーならではの個性が浮き出てくると思います。ゆっくり付き合いたい1足です。

源四郎 ダブルモンクストラップ 

バックルが勇ましく、男前な顔立ちが物欲を掻き立てます。足腰の細い若造には不釣合いかも知れませんね。積み重ねたキャリアがなければ似合うとは言えないかも知れません。

勘三郎 Uチップ

適度な色気があるので、ブラウンを選らんで正解だと思います。甲部分に表情があるのでパンツ選びの楽しさがあります。ソックスも遊んでみては。

弥三郎 ローファー

https://sanyo-i.jp/s/sanyoyamacho/p/Q741700257

キチンと履きたい、美しいローファです。ソックス選びが楽しそうです。ブラウン系ならグリーンのアーガイル、黒なら赤をアクセントに。

和一郎 フルブローグ

https://sanyo-i.jp/s/sanyoyamacho/p/Q740171009?fid=list

ハート型のメダリオンが施されたスペシャルコレクションです。シューズデザイナー坪内浩氏とのコラボレーションで提案されました。ミドルエイジに纏ってほしいお茶目な1足。モテるよね。

職人たちの手には神々が宿っている 私達が出来ることは、何か

http://www.sanyoyamacho.com/collection/premium_items03.html

三陽山長には職人歴半世紀以上という方々が手がける、スペシャルラインがあります。『極み』と名づけられほぼ手作業によって誂えられます。機械では対応できない工程を、機械よりも正確に進めていきます。

彼らの指はいびつに変形していることが多いと聞きます。特殊な道具を使うためだったり、縫い糸でタコが出来たり。しかし、手や指が靴を作る形にならなければ、相応しい製品は出来ないのかも知れません。たぶん彼らの手にはもの作り神々が宿っているのです。

http://footage.framepool.com/ja/shot/243218264-shoemaking-shoemaker-working-clothes-workshop

そうでなければ、ああした神々しい靴には辿り着けません。既製ラインであってもその基盤は揺るぎません。かしわ手を打つまでは不要ですが、手元に届いたことを感謝して履き降ろす、そうした儀式が必要かも知れませんね。