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時代を反映するデザイン ビットローファーを読み解く。

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ホースビットローファーと呼ぶのが正しいようですが、少々長いので『ビットローファー』と略させていただきます。

老舗メゾンの『GUCCI』が本家本流だと思いますが、洋の東西を問わず様々なメーカーから販売されています。しかし、スリッポンタイプで甲部分に金具がついていれば全て『ビットローファー』と呼ぶのはいかがと思うので、ここではグッチ製を中心に、その対峙品として相応しい『ビットローファー』を紹介しながら、本家の魅力を再確認してみたいと思います。

誕生から現在まで。ビットローファーに魅了される理由。

http://countless-river.net/?pid=90211239

ビットローファーは、コインローファーであればスリットの入ったベルトを取り付ける箇所に金具のアクセントを用いたデザインのことです。この金具はホースビットと呼ばれ、そもそも馬具メーカーとして創業した『GUCCI』ならではの意匠として使われるようになりました。

ホースビットは1950年代はじめ女性用のバッグに装着されると、シャープでありながら愛らしいデザインが話題になりたちまち人気シリーズとなります。そのホースビットを男性用ローファーに取り付け、1953年に発売されました。

それまでのローファーと言えば誰もが思い浮かべるデザインで、学生のものという印象が拭えませんでした。しかしそれを大人が履ける、大人こそ相応しいローファーとして『GUCCI』が仕掛けたのでした。

またハリウッドの名優フレッド・アステアに商品提供して露出を高めるなど話題づくりも巧妙で、ヨーロッパよりもアメリカでの人気が高まりました。『クレイマー・クレイマー』の劇中でダスティン・ホフマンが着用するなど、裕福なアメリカ人を象徴するアイコンとしても話題になりました。

https://gqjapan.jp/fashion/wardrobe/20120528/fredastai

『GUCCI』のビットローファーは、年代ごとにデザインをマイナーチェンジしてアップデイトを重ねています。ですから1足あれば事足りるのではなく、新作が出るたびに気になって仕方がない困った存在でもあります。クリエイティブ・ディレクターがトム・フォード時代のゴージャスでセクシーなビットを持っていても、現在のアレッサンドロ・ミケーレのつくりだすデカダンスなビットにも惹かれる、魅惑たっぷりのローファーなのです。

結局、グッチに行き着く。グッチのビットローファーをご紹介。

https://ameblo.jp/lubbshop/entry-12255251949.html

1953年の初リリースから現在にいたるまで、何種類のビットローファーが誕生し、どれほどの人々を魅了してきたのでしょうか。時代に応じてフォルムやデザインを変えるだけなく、素材使いにも独特の提案をして私たちを喜ばせています。時代や世相を反映するというよりも、それらを従え逆に影響を及ぼしたと言ってもいいのかも知れません。

出来るだけ年代を追いながら、デザインや素材使い、そして言葉では表現しきれない雰囲気、ニオイといった違いまで紹介できればと思っています。

1953コレクション

http://openers.jp/gallery/318739/1

2013年に誕生から60周年を記念して『1953コレクション』が発表されると大きな話題になりました。当時のモノ作りをリスペクトし『ビットローファー』といえば誰もが思い浮かべるフォルムを見事に復刻しました。まさにコインローファーというべきスタイル、その完成形を損なうことなくホーズビットが装着されています。当時の資料を探すことはなかなか至難ですから、こうした邂逅はありがたい限りです。

https://ameblo.jp/speedaddict/entry-12120569190.html

しかし、この復刻は単なるリバイバルではありませんでした。当時では考えらえない素材使いや、色使いで新しい解釈を提案してくれました。特に目を引いたのはクロコダイルなどハードな皮革を纏ったもの、さらにはエナメルを用いたものなどでした。モチーフは当時に得ながら、現在ならではの可能性を融合させた品格を示してくれたのです。

http://openers.jp/gallery/318739/2

しかし、しかし何と言っても驚かせてくれたのは『スタッズ付き』ではなかったでしょうか。素材を変えるということに留まらず、スタッズを打ち込むという大胆な発想。ブランドの持つ高い品格とは逆方向のロックな味付けですが、それすらも上品に仕上げて見せるグッチならではのオリジンを感じることが出来ると思います。

カジュアル&アウトドアテイストのビットローファー

https://tokeibakai.exblog.jp/18611650/

タフなコマンドソールを装着したシリーズもユニークな提案でした。アッパーはそれまでビットローファーを残しながら、ソールだけはやや肉厚なラバーソールで仕上げて見せました。コバのはり出しも従来品よりは大きくとっていたかも知れません。モカ縫いなどのステッチも素朴に仕上げていたように感じました。

素材もスエード使いが多く、そのためデニムやチノとコーディネートする提案が主流でした。このシリーズの中で特にユニークだったのが、本来ローファーと呼んではいけない?ミドルカットのデザインでした。アウトドアテイストが強く、ケッコウなボリューム感があるためでしょうか、またコーディネートは難しかったのか、最近は見かけなくなりました。しかしそうなると、とたんに懐かしく感じるもので、今だったらこうしよう、ああしてみようと懐しむ存在になっています。

番外編 バンブーローファー

http://guccibagbag.blogspot.com/2012/07/gucci.html

今回のテーマからは少し脱線しますが、ビットローファーの発展形?としてリリースされたバンブーシリーズを紹介させていただきます。このシリーズはホースビットがつけられて箇所に、バンブー(竹製)のチャームをとりつけたものです。ホースビット同様にレディースのバッグに取り付けたバンブーチャームが評判になり、ローファーやドライビングシューズとして展開します。

https://item.rakuten.co.jp/auc-kitazume-shoji/10003788/

ホースビットのような金属的なアクセントではなく、竹が持っている奥ゆかしい輝きが上品なアクセントとなってぃます。メンズだけでなくレディースでも展開していました。こちらも数シーズンリリースされたようですが定番とはならなかったようです(レディースバッグは継続中)。復刻を待ちたいシリーズです。

新生グッチが放つ 毒のあるビットローファー

現在グッチのクリエイティブディレクターを勤めるアレッサンドロ・ミケーレはグッチのアーカイヴを誰よりも知る存在なのだそうでう。それは資料や画像だけでなく、それらが放つツヤやにおいも含まれていると言われています。その上で切り刻み、解体することで芯に当たる部分を把握できたのでしょう。

ですから彼の異彩を放つデカダンな提案は、グッチらしからぬと言われながらどこまでもグッチなのです。それはビットローファーというアイコンでも十分にくみ取ることが出来ます。何といってもファー付きのサンダルには肝を冷やされる思いをしました。そして惜しみない称賛を聞くこともできました。

これまでホースビットとともにデザインを支えてきたモカ縫いを排したデザインや、Uチップを落としこみドレスシューズとしても使えそうな研ぎ済まされたまで。無国籍でありながら、それはグッチという国籍しかありえないプライドを内包しているのだと感じます。

http://cluel.jp/archives/4755

革靴しかもレースアップシューズを素足で履くという解釈が当たり前になっています。これまでタブーであったスーツにローファーという境目も消えつつあります。素材やシーンを選べば、スーツに素足履きのビットローファーという選択も許される日が来るのかも知れません。しかしそれはあくまでグッチのビットローファーに限られますが・・・・。

もうひとつのビットローファー フェラガモのガンチーニ

フェラガモは確かなモノ作りとチャーミングが同居する根強い人気のイタリアンブランドですが、最近目にする機会が減ったように感じています。フェラガモはそもそも靴づくりが本業でしたから、ヴァラなどの名品を多く輩出してきました。そしてそのひとつが『ガンチーニ』シリーズです。モチーフはグッチと同様に馬具ですが、それより少し複雑なデザインに仕上がっています。

https://www.pinterest.jp/pin/477240891745020137/?lp=true

しなやかで柔らかい素材を使い、チャーミングな印象は女性を魅了しました。そしてその人気は男性にも波及していきます。バブル期においては、グッチ派とフェラガモ派という二大潮流があったように記憶しています。ですから当時を知るものにとって、またフェラガモ派にとって、ビットローファーはグッチを指すもので、フェラガモにおいては『ガンチーニ』と呼ぶことになっていました。

グッチにくらべ少し大振りな『ガンチーニ』は、歩くとシャラシャラと軽やかな音がします。柔らかい質感は素足で履いてもストレスがありません。何といっても、作りに余裕を感じます。緻密でありながら手作りの遊びを感じます。

2018年のフェラガモはこれまでになく雄弁なデザインを提案しています。ガンチーニを大胆に配したデザインは自信にあふれています。もちろんガンチーニをレイアウトしたローファーも健在です。しかしそのベクトルはよりクラシックでシックな方向に向いているようです。大人向けのローファーが気になります。

グッチもブランドの威光を感じられない時間を経験しています。それを支えたひとつがホースビットという小さな金具だったのかも知れません。『ホースビット』と『ガンチーニ』、競う合うのではなく、それぞれが自身の役割を全うすることでさらに美しい時代が開けてくると信じています。