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モードからクラッシックまで。スリッポンで着こなしが広がる。
今回はタイトルにもあるように、使い方次第でクラシックでもモードでもイケるスリッポンについての考察です。下はクリスチャン・ルブタンのスリッポンですが、ご覧のとおり、かなり攻めの姿勢がうかがえます。しかし、こうしたクセの強い靴もデニムなどで中和するとシックな印象を醸しだしてくれるから不思議です。本来はモード寄りのスリッポンですが、本物という実力があるためか、ボーダーなど微塵も感じさせません。
ボーダレス化によって意外な化学反応がおこり、想定外の価値が生まれることは歓迎するべきことです。しかしその一方で、本来の意味や概念が置き去りにされ見失われるという怖れがあります。スリッポンとは何なのか、改めて認識を深めることで、その先にある新しい価値を共有できるのではないでしょうか。
http://auction.brandear.jp/search/detail/AuctionID/11385761/
初級編 スリッポンとは?
https://glazeblanc.exblog.jp/25625309/
男の靴を大別すると、紐ありと紐なし その2種類となります。紐アリ靴は総じてオックスフォードシューズと呼ばれ、その起源はオックスフォード大学の学生に多く履かれていたからと言われています。一方紐ナシ靴はスリッポンシューズと総称されます。足を滑りこませて着用することから命名されました。slip-onという行為が、そのまま呼称として広がりました。
ですから上の写真 星型スタッズを全体にレイアウトした個性的なジミー・チューの作品も紐ナシ、滑り込ませて着用することからスリッポンに分離される訳です。また下にある美しいローファー、これはフランスのJMウェストンの名品180シグニチャーモデルですが、これもカテゴリティ的にはスリッポンに分類されます。
http://openers.jp/gallery/313668/5
つまり大分類はスリッポン、中分類(デザインや用途・素材使いなどで分類)としてローファーや他の種類があるという理解でいいと思います。なお中分類についての詳細は後述を参照してください。
スリッポンというと、下のようなスニーカータイプを連想される方も多いと思います。もちろん間違いではありませんが、それではあまりに狭義というもの。分類としてはスリップオンタイプのスニーカーに属するというのが相応しい理解のようです。
https://store.shopping.yahoo.co.jp/chiki-2/vans-slipon-bwcw.html
https://item.rakuten.co.jp/auc-focus/di1601ga03_white/
中分類に属する名品たち。魅惑のスリッポンをご紹介
ジョンロブ ロペス コインローファー
http://www.natoriya.jp/cgis/goodslist.cgi?mode=view_detail&genre_id=00000138&goods_id=00000051
前述のように、スリッポン=ローファーという公式ではなく、概念としてはスリッポン≧ローファーが相応しい位置関係かも知れません。あくまで分類上ですが、スリッポンのほうが上位にあるという理解に立ちローファ―につての理解を進めましょう。
ローファーはLOAFER(=怠け者)という言葉に起因しています。と言っても怠け者が多く履いたからと言ういのはなく、紐靴よりも簡便に履けるという気軽さを表現しています。
写真はイギリス靴の名門ジョンロブのローファーですが、先のJMウェストンのそれと同様に息を飲むような美しさがあります。無駄のないフォルムや確かな縫製技術は他ブランドの模範としてリスペクトされてきました。
一生ものとは軽々しく言えませんが、十分なメンテナンスなど大切に扱うことで長く付き合うことができる、付き合いたい一足だと思います。黒のローファーはジョンロブ、ブラウンはJMウェストン、なんと贅沢な選択でしょう。
https://blogs.yahoo.co.jp/chickalot06/6070077.html
このようなデザイン、つまり甲部分にスリット(切れ目)の入ったベルトが横断しているデザインをコインローファーまたはペニーローファーと呼ぶ場合があります。その由来は、アメリカの学生がこのスリットに1セント硬貨を挟みアクセントとにしたことにあります。女の子の気を引きたい、週末のデートに誘いたい、ライバルとの差をつけたいなどという、学生ならではの健気で一途なエピソードです。
オールデン リボンタッセル
http://aldenstyle.com/2018/06/03/tassel-loafers/
リボンタッセルのタッセルとは、房飾りの事です。カーテンを開けたあと、まとめておくベルトや紐についている房飾りなどをタッセルと呼び、写真のように房飾りがついたものはリボンラッセルローファーと呼ばれています。
これはハリウッドスターのポール・ルーカスが作らせたと言われていて、彼がイギリスで手に入れた房飾り(タッセル)のついたひも靴を「よりシンプルに」と靴メーカーに依頼したことから始まりました。しかし実際に制作したのはオールデンでした。つまりオールデンが初めてリボンタッセルを作ったブランドという事にになります。
このローファーは大戦終結後(1950年代)、アメリカ東海岸学生の間で流行します。いわゆるアイビーリーガースにとってドレスなローファーとして根付いていきます。その後エリートビジネスマンや弁護士となった彼らが、紐靴の代わりにタッセルローファーを愛用するようになりました。
華やかな印象の靴だからといって敬遠するのはなく、装いのアクセント、いい意味でのハズして使う事で本領を発揮してくれます。
https://www.pinterest.jp/pin/284852745160383025/
ドレスコードはカジュアル、プールサイドで開かれるパーティの招待が届いた。ネクタイはせず、ニューポートタイプのジャケットに白パン、素足にリボンタッセルで。
クライアントとのゴルフ。先方の専務もメンバーに含まれる。プレイ後表彰式を兼ねた会食あり。ジャージーなジャケットとストレッチの効いたパンツ、敢えて白ソックスにブラウンのリボンタッセルであれば失礼はありません。
汎用性の高いシンプルなローファーを基軸に、こうしたシャレっけのある一足を加えることでコーディネートの幅が格段に広がります。オールデン、出来ればコードバンにすることでそうした気分を長く味わえます。
シルバーノ・ラタンジ キルトタッセル
http://shoesaholic-jp.com/?pid=116351939
キルトとはスコットランドの伝統衣装で、スカート状の腰布のこと。多くはタータンチェックで、バグパイプを抱えて演奏する様子を覚えている方も多いと思います。
紐靴の甲部分に取り付けられ、本来は砂除けとしての役割を担っていました。そのデザインが転じてローファ―タイプにも波及したのではないかと思っています。しかし現代の道路事情では、砂やホコリの侵入は考えづらいので、当時の名残りとしてクラッシックな雰囲気を提供してくれるアクセントとなっています。
JMウェストンのUチップ ゴルフにはオプションでキルトが提供されていて、本体とは違う色を選ぶことで足元にアクセントを与えてくれます。
https://www.fukulow.info/jmweston-golf/
ゴルフつながりではありませんが、実際のゴルフシューズにはキルト部分が装着された状態で販売されているものを見かけることがあります。バンカーショットでは砂除けとして活躍するかも知れませんが、こちらも今となってはデザインの一部という役割だと思います。
上の写真はイタリア靴の至宝、シルバーノ・ラッタンジによるキルトタッセルですが、履きこなすにはなかなか手強い相手かも知れませんね。しかし、豊かな白髪の紳士が、生成りの麻スーツ、こうした靴を合わせて登場すれば昨今話題のコロニアルファッションの御仁として脱帽ものです。ファッションも修行、あるのみです。
三陽山長 サイドエラスティック
https://blogs.yahoo.co.jp/oba_q_yokohama/33179051.html
スリッポンタイプの靴は、オックスフォードと比べてフォーマル度が低いため、ビジネスの場には不向きと言われています。一部アメリカや日本においてはリボンタッセルをスーツに合わせることもありますが、あくまでハズシとして、基本を理解したうえでの遊びという範囲です。
しかし、このサイドエラスティクだけは中庸、いいとこ取り、ハイブリッドタイプと言えるかも知れません。紐はなく、スリッポンタイプなのですが、パンツから覗くつま先部分はオックスフォードシューズと言える佇まいです。サイドスリットをゴムの力で包み、着用感をフィットさせてくれます。
http://blog.uktsc.com/sinjuku/4076
分離は異なりますが、サイドゴアブーツと同じ構造、そのショートバージョンと言った作りとも言えます。適度なフォーマル感があるのでビジネスにも対応すると思うのですが、あまり見欠けることがありません。日本のビジネスシーン、生活環境を考えれば、こうしたタイプの靴がもっと認められてもいいのではと思っています。
最強のスリッポンとは。
http://openers.jp/gallery/1308852/6
それはジョンロブのダブルモンクストラップ、ウイリアムではないでしょうか。鈍い光沢を放つバックルが男心を誘惑します。手にした時の重さも、なんともいいのです。
黒のウイリアムであればチョークストライプのバンカーズスーツでも許されるでしょう。放つ威光が他のスリッポンと違うのです。数年前、バックルをひとつだけハズシて履くテクニックがピッティで流行しました。短く仕上げたパンツでに合わせ、肉厚のチェスターフィールドでも足元を引き締めていました。彼らを虜にした多くが英国製であり、ジョンロブのウイリアムでした。
ではウイリアムとモードの取り合わせを考えてみましょう。エディ・スリマンが得意とすルロックテイストとはいかがでしょう。デカダンス漂う新生グッチでは。無理なく収まると思うのです。
https://www.vogue.co.jp/fashion/news/2012-06/22/saint-laurent-paris
スリッポンはカジュアルなアイテムです。そのため現代においてはそれがモード寄りであれ、クラッシック寄りあれ様々なコーディネートやシーンにも取りいれらるようになりました。だからこそ確かな作りと素材使い、そしてストーリーが求められます。つまり本物が求められるということです。